『必死剣鳥刺し』から思いをはせる悪役のこと
必死剣鳥刺し』(平山秀幸監督)を観た。やァ、結構でござんした。
 近ごろは時代劇というと藤沢周平モノばかりやっている気がするが、やはり受けるからなのでしょうかネ。
 筋としては、“藩命”で斬りたくない相手を斬らねばならないとか、愛する人を突き放して死地に向かわなくてはいけないといった、封建時代ならではの“武士道残酷”系のものが多いように思う。
 しかしチョット待て、このような背景などは、今の時代に理解を求められず、“時代劇が受けない”要素の一部だったのでは?
 何なのでしょうネ一体。みんな、現代には無い奥床しきロマンスを楽しむ為の舞台装置──ファンタジー的世界観とでも心得ているのか知ら。
 それとも宣伝に乗せられ藤沢ブランドに群がるだけ? なァんてアチシはかように意地の悪いコトを考えてしまう。
 まァそれはともかく……この映画、何といってもクライマックスの大殺陣が壮絶。大人数相手に豊川悦司がズタボロになりながら闘う。リアルな迫力と痛みを感じる斬り合い描写であった。
 ただ、日常の所作に関しては昨今の時代劇(特に藤沢周平モノに多い気が)の良くない処で、いかにも「キチンとやってますよ、どうです美しいでしょう」とばかりに見せつけをするので、ちょいと鼻につく。
 これはサラッと目立たぬよう、それでいてキチンとやっている方が、それこそ“奥床しい”んじゃァござんせんか。

 ところで……何を見ていてもツイ敵(かたき)役に目が行ってしまうのがアチシの性癖。本作では大ワルの中老(家老)を岸部一徳が演(や)っていた。
「そうか、今はこのシトがそんな役をやる格になっているのか!」などと、時代遅れな感想が漏れてしまった。
 何考えてんだか判らない細い目は確かに不気味で、「大滝秀治並みかも……」なァんて思ったりしたが、ウーム、やはりどうも小粒な感じが。偏見であろーか。
 しかし、ホントに時代遅れなことをぬかすようだが、あの役者この役者、みぃんな高齢になってきている……。ことに、アチシの好きな悪役俳優の方々なんて、70超えているか鬼籍に入っているか、という人ばかりである。
 シナリオ作家協会が出している月刊誌『シナリオ』8月号、「桂千穂の映画館へ行こう ──作り手たちの映画評」の中で評論家の浦崎浩實氏がこんなことを言っていた。伝聞の引用みたいな形になるが、ご容赦の程を。
〈俳優の故・内田朝雄さんがかつて新聞で仰ってたんですけども、悪役年齢というものがあるんだ、と。悪役が年取ってると、年寄りをイジメてるように見えるから正義の人が正義の人じゃなくなると言うんです。〉(『座頭市 THE LAST』の敵役・仲代達矢についての会話より)
 成る程そう言われてみると、今や民放唯一の連続テレビ時代劇である『水戸黄門』なんぞ“悪役年齢”過ぎた方々ばかりがワルを演じている気がする。
 亀石征一郎、内田勝正……こないだは若林豪(!)が悪役やってたなァ。みな大好きな人たちであるが、やはり高齢でワル芝居に力入れている姿には、何処か痛々しさをおぼえずにはいられない。
 主役スターはもちろんのこと、悪役すら育たずに廃れてゆく現在(いま)の時代劇には、やっぱり希望が持てないなァ……。
 こんど公開の『桜田門外ノ変』では、悪役といってよいか判らないが討たれ役の井伊直弼は、伊武雅刀とのこと。これはなかなか良い配役じゃござんせんか。期待。

2018/10/20
*2010/08/20 旧〈牝犬亭雑記〉掲載分を改稿

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